相続人に障害を持つ人がいる場合
相続人に障害のある方が含まれていても、直ちに特別な手続きが必要になるわけではありません。重要なのは、障害の有無そのものではなく、遺産分割協議の内容を理解し判断できるかどうかです。
相続手続きでは、遺言がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行います。そこで問題になるのは、相続人本人に契約内容や分割内容を理解して意思表示できる判断能力があるかどうかです。
身体障害があっても判断能力に問題がなければ、通常どおり遺産分割協議に参加できます。一方、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な場合には、成年後見制度などの利用を検討する必要があります。
身体障害がある相続人への対応
身体に障害がある場合でも、遺産分割協議の内容を理解し、自分で意思表示できるのであれば、原則として通常の相続手続きで対応できます。障害があることだけを理由に後見人が必要になるわけではありません。
たとえば、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由などがあっても、本人が相続内容を把握し、署名押印の意味を理解できる状態であれば、法的には本人自身が相続手続きに参加できます。必要に応じて、説明方法を工夫したり、読み上げや補助を受けたりしながら進めることが実務上重要になります。
知的障害・精神障害・認知症がある相続人への対応
知的障害や精神障害、認知症がある場合には、症状の程度によって遺産分割協議への参加方法が変わります。判断能力が不十分であれば、そのまま協議をしても有効な遺産分割にならないおそれがあります。
特に、相続の内容や法律効果を理解して適切に判断することが難しい場合には、家庭裁判所で成年後見人、保佐人、補助人などの選任を受けることが必要になることがあります。
令和7年法制審議会が行われ、成年後見制度に関する改正要綱案が取りまとめられました。
改正要綱案では、「補助」類型を中心とした、より柔軟で自由度の高い成年後見制度の実現を目指すことになりそうです。
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裁判所も、協議内容の良し悪しではなく、本人の判断能力の程度によって後見人等が必要になる場合があると案内しています。そのため、相続人の中に判断能力に不安のある方がいる場合は、まず医師の診断書や日常生活の状況などを踏まえ、どの制度が必要かを見極めることが大切です。
成年後見制度を利用する場合
成年後見制度は、判断能力が不十分な方の財産管理や法律行為を支えるための制度です。相続では、遺産分割協議に参加するために利用されることが多くあります。
成年後見人が選任されると、本人に代わって財産管理や法律行為を行うことができます。
令和7年法制審議会が行われ、成年後見制度に関する改正要綱案が取りまとめられました。
改正要綱案では、「補助」類型を中心とした、より柔軟で自由度の高い成年後見制度の実現を目指すことになりそうです。
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任意後見制度を検討できる場面
将来の判断能力低下に備えたい場合には、任意後見制度が有効な場面もあります。元気なうちに契約しておくことで、将来の財産管理や契約手続きをあらかじめ備えやすくなります。
任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来の後見人となる人や代理してほしい内容を契約で決めておく制度です。実際に任意後見が始まるには、家庭裁判所が任意後見監督人を選任する必要があります。相続に関しても、契約内容によっては、将来の相続手続きに備えた体制づくりに役立つでしょう。
ただし、すでに本人の判断能力が低下している場合、任意後見契約は利用できません。その場合は法定後見制度の検討が必要です。
後見人等を付けずに遺産分割協議を行うリスク
判断能力が不十分な相続人について必要な法的手続きを経ずに遺産分割協議を進めると、協議の有効性が争われるおそれがあります。結果として、遺産分割協議のやり直しや経費追加の原因になってしまいかねません。
遺産分割協議は、相続人全員の有効な意思表示があって初めて成立します。認知症や重度の知的障害、精神障害などにより本人の判断能力が不足しているのに、そのまま署名押印をして協議を成立させた場合、後から無効を主張される可能性があります。
いったん無効になれば、名義変更済みの財産や払戻済みの預貯金について再整理が必要になることがあり、実務上の負担は非常に大きくなるでしょう。相続人同士のトラブルを防ぐ意味でも、最初の段階で適切な制度を利用することが重要です。
成年後見等の選任には時間がかかる
成年後見制度は有効な仕組みですが、申し立ててすぐに選任されるわけではありません。相続税申告や相続放棄などの期限もあるため、早めの着手が必要です。
家庭裁判所での後見開始の申立てでは、申立書、診断書、本人情報、親族関係資料、財産資料などの準備が必要になります。事案によって所要期間は異なりますが、実務上は一定の時間を要することが多いため、判断能力に不安のある相続人がいると分かった時点で準備を始めるのが望ましいでしょう。
相続税の障害者控除とは
相続人が障害者に当たる場合、一定の要件を満たせば相続税の障害者控除を受けることができます。これは、障害のある相続人の生活保障に配慮した税額控除です。
国税庁によれば、障害者控除が受けられるのは、相続や遺贈で財産を取得したときに日本国内に住所があり、その時点で障害者であり、かつ法定相続人である人です。
控除額は、障害者が満85歳になるまでの年数1年につき10万円で、特別障害者に該当する場合は1年につき20万円です。1年未満の期間があるときは切り上げて計算します。
一般障害者と特別障害者の違い
障害者控除は、一般障害者か特別障害者かによって控除額が異なります。手帳の等級や状態によって区分されるため、事前の確認が必要です。
一般に、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳などの等級に応じて判定が行われ、税務上の基準に基づいて一般障害者か特別障害者かが区分されます。
また、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人については、成年被後見人であることなどが判断材料になる場合があります。
控除しきれない場合の取扱い
障害者控除は、障害者本人の相続税額から差し引くのが原則ですが、控除額が相続税額を上回る場合には、一定の扶養義務者の税額からも差し引くことができます。
この仕組みにより、障害者本人に十分な税額がない場合でも、控除が無駄になりにくくなっています。ただし、過去の相続で同じ人がすでに障害者控除を受けている場合には、今回の控除額が調整されることがあります。
まとめ
相続人に障害のある方がいる場合は、まず本人に遺産分割協議の内容を理解し判断できる能力があるかを見極めることが重要です。身体障害があるだけで直ちに後見制度が必要になるわけではありませんが、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な場合には、成年後見制度などの利用を検討する必要があります。
また、相続税の場面では、要件を満たせば障害者控除を利用でき、一般障害者は満85歳まで1年につき10万円、特別障害者は1年につき20万円の控除を受けることができます。相続手続きと税務対応は密接に関わるため、判断能力の問題と税額控除の問題をあわせて整理しながら進めることが大切です。









