相続放棄とは何か
相続放棄の基本的な意味と、民法に基づく法的効果について確認しておきましょう。
相続放棄とは、被相続人が所有していたプラスの財産(預貯金・不動産など)とマイナスの財産(借金・保証債務など)を一切引き継がないことをいいます。
民法第915条により、相続人は原則として相続開始を知った日から3か月以内(熟慮期間)に、相続を承認するか放棄するかを選択しなければなりません。
通常、相続人はプラスの財産とマイナスの財産すべてを相続します(民法第896条)。しかし、家庭裁判所へ相続放棄を申述し受理されれば、はじめから相続人でなかったものとみなされ(民法第939条)、すべての財産の相続をしなくていいことになるのです。
相続放棄の種類と法的な違い
正式な相続放棄と、遺産分割協議による放棄の違いを理解することが重要です。
1.手続き上の相続放棄
正式な相続放棄は、以下の特徴があります。
概要
家庭裁判所へ相続放棄申述書を提出し、受理されることで法的効力が生じる制度です。
法的根拠
- 民法第938条(相続放棄の方式)
- 民法第939条(放棄の効果)
ポイント
- 借金や保証債務も含めて一切承継しない
- 原則として撤回不可
- 熟慮期間内(3か月以内)の申述が必要
相続放棄は、被相続人の負債を確実に免れる唯一の法的手段だといえます。
2.事実上の相続放棄
遺産分割協議で自分が相続する分の財産を他相続人に譲る場合です。
概要
遺産分割協議で「自分は何もいらない」として相続分を他の相続人へ譲る方法です。
注意点
- 法律上の相続放棄ではない
- 債務は法定相続分に応じて負担する可能性あり
- 債権者の同意がなければ借金は免除されない
自分の相続分を他相続人に譲る方法は「民法上の正式な放棄ではない」ことから、被相続人の借金回避を目的とする場合は不十分かもしれません。
相続放棄の具体的な手続き
家庭裁判所に対する申述手続きの流れと注意点を整理します。
1.熟慮期間の確認
相続開始を知った日から3か月以内に申述する必要があります。
熟慮期間内に、
- 財産調査
- 借金の有無確認
- 相続するか放棄するかの判断
を行い、手続きを行います。
2.家庭裁判所への申述
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述します。
主な提出書類
- 相続放棄申述書
- 被相続人の戸籍(死亡記載あり)
- 相続人の戸籍謄本
- 住民票除票または戸籍附票
手続きを行うと裁判所から照会書が届き、これに回答後、受理通知が発送されます。
3.放棄成立後の効果
民法第939条により、「相続放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定められています。
つまり、
- 財産も受け取れない
- 借金も引き継がない
- 次順位相続人に権利が移る
といった点に注意が必要です。
熟慮期間経過後でも認められるケース
例外的に熟慮期間経過後でも放棄が認められる場合があります。
たとえば、被相続人に財産や負債があることを知らなかった、といった合理的理由がある場合、熟慮期間伸長の申立てや起算点を「負債を知った日」とする主張が認められることがあります。
ただし、これは例外的扱いであり、一部財産を処分していた場合は単純承認とみなされる可能性があるため慎重な判断が必要です。
債権者との関係
相続財産に借金や保証債務が含まれている場合、債権者との法的関係を正しく理解しておくことが重要です。相続人の判断次第では、思わぬ請求や法的トラブルに発展する可能性があります。
債権者の同意が必要
遺産分割協議において「自分は財産を受け取らない」とということで全相続人が合意したとしても、それは相続人同士の内部的な取り決めにすぎません。民法上、相続人は法定相続分に応じて被相続人の債務を承継しますから、正式な相続放棄をしない限り、債権者に対する支払義務を免れることはできないのです。
債権者の合意が必要
- 「兄がすべての財産を相続する」と合意した
- 「自分は何も受け取らない」と遺産分割協議書に記載した
このような場合、債権者がその合意に同意していなければ、債権者は各相続人に対し法定相続分に応じた請求をすることが可能です。
特定の相続人が債務を負担する場合
債務を特定の相続人だけに負担させたい場合は、
- 債権者との債務引受契約
- 免責的債務引受の合意
など、債権者の明確な同意が不可欠となります。
詐害行為取消のリスク
借金の存在を認識しながら、債権者への支払いを免れる目的で財産を処分したり形式的に相続分を放棄したりする行為は、民法第424条に定める「詐害行為取消権」の対象となる可能性があります。
詐害行為取消権とは
詐害行為取消権とは、「債務者が債権者を害することを知りながら財産を減少させた場合、債権者がその行為の取消しを請求できる制度」のことをいいます。
詐害行為取消権の例
- 借金があることを知りながら不動産を無償で親族に譲渡する
- 相続開始後に財産を隠す・処分する
- 債権者の請求を避ける目的で遺産分割協議を行う
といった行為が詐害行為として挙げられます。
このような場合、債権者は裁判によりその行為の取消しを求め、財産を元の状態に戻したうえで強制執行を行うことが可能です。
まとめ
相続放棄を検討する際は、財産だけでなく債権者との法的関係を踏まえた判断が不可欠です。安易な対応は将来的な法的責任につながるおそれがありますので、十分に注意しましょう。
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